ヨーロッパ文学の最高峰とされる作品のひとつに、ダンテ・アリギエーリの**『神曲』**があります。
その中でも特に有名なフレーズが、地獄篇の冒頭に登場する 「全ての希望を捨てよ」。
この記事では、この言葉の意味と『神曲』の背景、さらにはユダヤ教との関わりまでを分かりやすく解説します。
ダンテとは誰か?
ダンテ・アリギエーリ(1265–1321)は、中世末期のイタリアを代表する詩人であり思想家です。
彼の代表作『神曲』は、後のルネサンスにも大きな影響を与え、シェイクスピアやミルトンにもつながる西洋文学の礎となりました。
『神曲』という壮大な物語
『神曲』(原題 La Divina Commedia、「神聖なる喜劇」)は、ダンテ自身が主人公となり、
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地獄(Inferno)
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煉獄(Purgatorio)
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天国(Paradiso)
を旅していく長大な叙事詩です。
旅の案内役として登場するのは、理性を象徴する古代ローマの詩人ウェルギリウス、そして信仰と神の愛を象徴する女性ベアトリーチェ。
人間の罪と救済、そして神の秩序を描き出す作品として、神学と文学を融合させた傑作となっています。
「全ての希望を捨てよ」の意味
『神曲』地獄篇の冒頭、ダンテが地獄の門に差し掛かると、そこには次のような言葉が刻まれています。
「ここに入る者は一切の望みを捨てよ」
(原文:Lasciate ogne speranza, voi ch’intrate)
このフレーズは、地獄に入る者に救済の余地がないことを宣告するもの。
現代では「絶望的な状況」にたとえて引用されることも多く、文化的にも広く浸透しています。
ユダヤ的背景とのつながり
『神曲』はキリスト教神学の世界観をもとにしていますが、その背後には**旧約聖書(ユダヤ教の聖典)**の思想も強く影響しています。
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地獄や罰のイメージは、旧約聖書に描かれる「神の裁き」と共鳴している。
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神の正義や救済史観は、ユダヤ教的伝統を土台にしてキリスト教に引き継がれたもの。
ただし、ダンテの時代には反ユダヤ的な思想も根強く存在しました。『神曲』にもユダヤ人に対する厳しい視線が見られますが、それは直接の攻撃というよりも、当時のキリスト教的価値観の枠組みの中での位置づけといえるでしょう。
まとめ
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ダンテは『神曲』を通じて、地獄から天国までの壮大な旅を描いた。
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**「全ての希望を捨てよ」**は地獄篇の象徴的な言葉で、絶望を意味する。
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ユダヤ的要素は旧約聖書的な正義や罰のイメージを通じて、『神曲』の世界観に組み込まれている。
『神曲』を読むことは、単に古典文学を味わうだけでなく、ヨーロッパ中世の宗教観や文化を理解する入り口にもなります。
「全ての希望を捨てよ」という言葉が今なお人々を惹きつけるのは、人間存在そのものに問いを投げかけているからかもしれません。